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【再録】慶三選手の2008年シーズンのこと

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前ブログに書いた記事を再編集しています。

【2008年公式戦レビュー】


東京ヤクルトスワローズ川島慶三選手、
2008年シーズンの打撃成績。

打率.255
121試合 353打数 90安打 打点35 得点52
本塁打4 三塁打4 二塁打16 盗塁20 出塁率.329

 
yahoo!プロ野球より)


7月中盤から、ショートを守るようになって、スタメンにも、ほぼ定着。試合数は、昨年の10から、今年121試合へ。最終的な打撃成績では、やはり、安打数90という数字が、凄い! と思う。移籍してから、一軍でこれだけの結果を出せたことに、心から敬意を表したい。川島君、本当によく”がんばった”。

【激震の年明け】
2008年の1月、年明け早々に、3対3のトレードが発表され、関西在住の一ファンである私にも、激震が走った。
理性では、彼にとって、これ以上ないチャンスだ! と、わかっている。しかし、ファイターズの川島君を見られなくなる、という、どうしようもない寂しさ……

それは、身勝手な寂しさではあるけれど、野球ファン生活史上(←結構、長い)、最も落ち込んだ出来事だった。大卒3年目で、これから! というタイミングでのこと。

『BT』(ベースボールタイムス)という雑誌に、
スワローズの編成の方のコメントが載っていた。

「大卒3年目の選手が”欲しい”なんて、普通は相手球団に失礼で言えません。
これも、高田監督と、ファイターズ球団との関係があってこそでした」

レアケースも、レアケース。
川島君は、欲されて、スワローズに行く。

あまりの落ち込み様に、普段、私の趣味には口出ししない夫も、
「ナニゴト?」と驚いたようで。何があったのか聞いてきた。
ひとしきり、説明した後……

「トレードは、仕方ない。それが、彼の運命だから。
活躍したときに、ずっと前から応援してきたんだと、誇りに思えばいいじゃないか」

というようなことを、私に言った。

そう思えるようになると、信じたい。
信じて、応援しなくては。

【ミッション】
川島君が、だんだん、大きな存在となっていくのは、このブログに、記事を重ねていく過程で、わかる。読み返すと、懐かしい。

釧路・帯広まで観に行ったこと。

鎌ヶ谷での交流会で”思うところ”を直接話せたこと。

ファームの地方球場のナイターで、最後の打者になって、
自分のヘルメットを蹴飛ばしたのを、目撃したこと。

2年目、関西のゲームで一軍のベンチに入っているのに、
ついに打席も、守備も、代走でさえも、出番を生で見られなかったこと。

福岡で牽制死したプレーのこと。

いろんなことがあって、それでも、いつでも、彼が選手として花開くことを期待して、その未来を信じていた。
チームが変わっても、その気持ちは変わらないでしょう?

さんざん取り乱した後に、考えたのは、既に組んでいた、”ファイターズのキャンプを見に行く予定”の中に、
”スワローズのキャンプへ川島君を見に行く”というミッションをつけ加えることだった。

【新しい章の始まり】
キャンプに出かける前日、関西では深夜のテレビで、映画『ニューシネマパラダイス』が放送されていた。テレビはつけているけれど、内容は頭に入ってこない。川島君に、手紙を書こうと試みていた。これだけ写真をたくさん撮って、交流会でも話したりしているのに、ちゃんと手紙を書いたことって、なかったな……

ずっと応援してきて、チームが変わることは寂しいけれど、大きなチャンスが到来したのだと思うし、活躍を信じて、これからも応援し続けます云々。

内容はわからないまま、映画のストーリーは、どんどん先に進んで行く。何度か書き直しているうちに、ニューシネマパラダイス』の有名なラストシーンが、画面に流れた。愛のシーンをちりばめた、圧巻の映像。

テレビ画面と重なるように、今まで見てきた、撮ってきた、川島君に関する数々の場面が、フラッシュバックする。彼のファイターズでの2年間という、一つの章は、終わったけれど、まだ、野球人生のラストシーンまで、何年も、ストーリーは続いていく。

新たな章の始まりを、私は見に行くんだ。

”手紙の代わりに、写真を渡そう。そして、可能ならば、思いは直接、伝えよう”自信を持って、渡せる写真は、正直、なかった。2年目のシーズン、試合に出たところを一つも見ていないから。

ナゴヤドームでの日本シリーズ第5戦の、試合前練習の写真。
”ファイターズの川島慶三”を生で見た、最後の日。

ヒルマン前監督と、一緒にノックを受けている写真と、ヒルマンさんにボールが直撃しそうになって、稲田君と「危ない!」と言っている写真。2枚だけ選んで、封筒に入れた。

【そして浦添

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浦添のサブグラウンド。ランニングが終わって、帰るときに、写真を渡そう。
そう決めて、緊張しながら、カメラを向けていた。

風が冷たくて、こんなに近くで見ているのに、後ろ姿を目で追うと、
”もうスワローズの選手になったんだ”と実感して、寂しくて。

彼の姿を撮りながら、複雑な気持ち、不安な気持ちを感じていた。

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この写真を撮った直後に、グラウンドから、彼ひとりが引き上げていく。
とっさには、声が掛けられなくて、坂を下りる後ろ姿を見ながら、どうするかを判断しなければならなかった。

客観的に見ると、滑稽な状況だけど、追いかけて、呼び止めることにした。”川島さん!”と叫んで……この時点で、もう、いっぱいいっぱい。周囲に誰もいないことが、救いだった。

振り向いて立ち止まってくれたところで、日本シリーズで、ヒルマンさんと写っている写真が
あったので、記念になるかと思って”と言いながら、紙袋を差し出す。

「がんばってください」

これが、言いたかった。真正面から、目を見て、くっきりと。

もう、ホントにホント、がんばって、レギュラーを獲って。
ケガをしないで、無事にキャンプを乗り切って。

今まで、これだけ真剣に、誰かに”がんばれ”と、言ったことはなかった。
川島君にとっては、わかりきった、当たり前のことだけれど。

”ありがとうございます”と言って受け取ってもらえた。

この瞬間だけで、私自身、
何もかも頑張れそうな、気持ちになっていた。

これからも、川島慶三を応援していく。
チームが変わっても、それだけは変わらない。

【この記事に頂いたコメントへの私の返答】
私も去年の11月、無理やり行った日本シリーズ第5戦が、
ファイターズの川島君を見た、最後となりました。
(半日お休みして、翌日は、名古屋から新幹線で出勤しました)
あのとき、最後とは全然思ってなかったんですけどね。

記事の方にも書きましたが、今回のトレード、
通常だったら、考えられないよね? という事態で。本当に混乱しました。

そうそう、私も浦添の後、名護に行って、ウォーミングアップの風景を見て、
”ああ、いないんだな……”と思って、
どこにカメラを向ければいいのかわからなくて、愕然としたのを覚えています。

本当だったら、ダル君の隣りにいて……とか、考えても仕方ないのに、思ってしまいました。

それでも、今年、慶三君がスワローズで活躍してくれたから、本当に良かったな、と今は思います。
誰もが、こんなチャンスがあって、
誰もが、こういう風に、ものにできるわけではないから。

来年、もっと活躍してほしいですね。

【再録、以上】